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“The Little House” by Kyoko Nakajima

次の授業で中島京子氏の作品を扱うため、その準備のため本書を読了した。2010年の直木賞授賞作。本書に関するYuki さんと翻訳者のGinnyさんとの対談がとても興味深かったので、いつか読みたいと思っていた。実は数年前に飯田橋ギンレイホール(閉館は本当に悲しい)で本書を原作とした山田洋次の映画を観ており、映画も気に入っていた。ただ、今回原作を読んで、山田監督には申し訳ないが、原作にはやはり敵わないと思った。


この小説では、第二次世界大戦中の日本がある女中(タキ)の視点から描かれる。田舎から東京に出て女中として働き、最初に仕えた旦那からは「ある種の頭の良さ」があると評される主人公。物語は高齢になり茨城に1人で住んでいるタキとその大甥とのやり取りと、戦時中の記憶とが交互に繰り広げられる。


文章が非常に読みやすく、すんなりこの世界に入っていくことができ、一気呵成に読み終えた。最終章でツイストが加えられ、物語の層が厚みを増す。入子構造を含むその構成の巧さに舌を巻いた。普段本を読んでいる時に涙腺が緩むことはほぼないのだが、この物語の底に流れている何かに涙腺を掴まれた。台北のカフェでこの本を読んでいたのだが、思わず途中で上を向いてしまった。隣にいたドイツ人と台湾人のカップルはきっと変な外国人がいると思ったことであろう(ごめんなさい)。


まず、この物語で教えられたのは、戦争と一口で言っても、その中で生きている人たちには一人一人固有の物語があったという当たり前の事実だ。また、言葉の恐ろしさにも改めて気付かされた。私たちが何気なく使っている「事変」という言葉。それをタキは「戦争」と言い換える。言葉を変えることによって事実は曖昧になるし、曖昧にできる。またこの物語を通して、兵士を慰労する「興亜奉公日」なる日が毎月1回あったことや、戦争がなければ1940年に東京でオリンピックが開催される予定であったことなど、私たちが通常習うことのない事実も知ることができる。


そして小説全体を貫くのが家に対する、仕えている人たちに対する主人公タキの思いだ。


「わたしは家の中で用事をしているのも好きだったし、外からその家を眺めるのも好きだった。そしてわたしのための部屋が好きだった。

たった二畳の板間をわたしがどんなに愛したか、そのことを書いても、ひとはおそらくわかってはくれないだろう。」

たった二畳でもとても大切にしていた部屋。時子奥様に対する憧憬、忠誠心、特別な想い。現在益々希薄になっている「家」、そしてその家が体現するものに対するひたむきな思いが読者の心を打つ。


物語としてもぐいぐい読ませますし、日本人として知らなければならない第二次世界大戦についての重要な事実もふんだんに鏤められています。素晴らしい作品でした。お勧めします!


 

“The Little House” by Kyoko Nakajima


Nakajima was awarded the Naoki Prize for this story. Since I had found the dialogue between Yuki and Ms.Takemori (translator) on this story quite intriguing, I always wanted to read it. This story has turned into a film by a celebrated Yoji Yamada, which I saw a few years ago and quite liked. Still, I have to admit the original story is a great deal better than the movie (Sorry, Mr. Yamada!).


In this story, what was going on in Tokyo during WW II is retold from the perspective of a maid named Taki. The virtuosity of the nested structure is brilliant. The loyalty and indescribable warm feelings Taki cherishes towards the house and landlady she serves touched me deeply. This novel made me realize that behind the one word ‘war’ lie innumerable stories of each individual. This story was not only entertaining but also quite educational in that some small details as well as all the major events of the war are spelled out.


I’d highly recommend it!

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